経営判断と外部環境
消費税減税で急増報道。乗る前に確かめてほしい3つのこと
「税率が8%から1%になります。今のうちにゴーストレストランを始めた方がいいですよ」。ここ最近、こういう電話やメールが増えていませんか。
ニュースでも「ゴーストレストラン急増、消費減税が追い風に」と報じられました。追い風は事実です。ただ、その風があなたのお店に吹いているとは限りません。
「今始めないと出遅れますよって言われて。正直、焦っています」
まず、決まっていることと決まっていないことを分けます
2027年4月から2年間、食料品の消費税が8%から1%に下がります。首相が正式に表明しました。ここは決まっています。
ただし、お店の中で食べる分は10%のままです。持ち帰りと宅配が1%になる見通しです。「見通し」と書いたのは、どこまでが対象かの線引きがまだ確定していないからです。
🔑 店内飲食
10%のまま
変わりません
🔑 持ち帰り・宅配
1%へ
見通し。線引きは未確定
🔑 期間
2年間だけ
2027年4月から
🔑 その後
8%に戻る
2年で戻す方針
期限つきの制度です。2年で終わる話にどこまで手を伸ばすか。この視点は最後まで持っていてください。
コロナ禍のとき、あなたの周りはどうなりましたか
あのときも、ゴーストレストランが一気に増えました。数年経った今、そのまま続いていて、なおかつ利益が出ているお店。あなたの周りに何軒ありますか。
成功したお店はあります。ただ、理由はほとんど同じです。「その立地に、宅配が合っていた」。商品ではなく、場所が勝たせています。立地が合っていなければ、同じ料理でも同じ結果にはなりません。
減税後、あなたは値札をどうしますか
ここは勘違いされやすいところです。減税されても、お客様の払う金額が7%下がるとは限りません。
税込990円のお弁当で考えます。今の税率8%なら、本体価格は 990÷1.08=約917円です。この917円が、お店の取り分です。
減税後、値札をどうするか。実は、選べる道が4つあります。
税込990円のまま
本体は 990÷1.01=約980円。取り分は917円から980円へ、63円増えます。お客様の見え方は990円のまま。値上げしていないのに、実質的な値上げになります。
税込980円にする
本体は 980÷1.01=約970円。取り分は53円増。お客様は「10円安くなった」と感じます。店もお客様も少しずつ得をする、いちばん現実的な線です。
本体950円に1%を乗せる
950×1.01=約960円。値札は960円。お客様は30円安く見えて、店の取り分も33円増えます。減税を、本体価格の見直しに使う考え方です。
本体917円のまま1%を乗せる
917×1.01=約926円。値札は926円。お客様は64円安くなります。減税分をまるごと渡す形で、店の取り分は1円も増えません。
お客様が「7%安くなった」と実感できるのは、Dだけです。そして実際には、AかBを選ぶお店がほとんどになります。
つまり、減税を理由に注文が増える、という前提はいったん外してください。決めるのは制度ではなく、あなたです。
ゴーストレストランには「レストラン」がありません
名前をよく見てください。ゴーストレストラン。レストランの部分が、抜けています。
飲食店の価値は料理だけではありません。空間、接客、雰囲気、帰り際のひと言。全部ひっくるめて、お客様はその価格を払っています。それがあなたの本当の強みです。
宅配は、その強みをそぎ落として料理だけで勝負する形です。しかも、宅配の会社に払う手数料は売上の30〜35%。ここで、二択を迫られます。
1,000円のまま出す
1,000×0.35=350円が手数料。残るのは650円。食材費300円、容器代50円を引いて、手元は300円。ここから人件費と光熱費を払います。
1,350円で出す
1,000×1.35=1,350円。手数料を価格に乗せれば、手元の650円は守れます。ただし、お客様が画面で見る値段は1,350円になります。
問題は、この1,350円が何と並ぶかです。画面の中では、あなたのお弁当の隣にスーパーの惣菜、コンビニの弁当、冷凍食品が並びます。そのどれも、1,000円を超えるものはそう多くありません。
お店の中でなら、1,350円は選ばれます。空間と接客がついているからです。ところが画面の上には、写真と値段しか並びません。そこで1,350円を選んでもらえるかどうか。それが、この二択の本当の中身です。
判断は、この順番でしてください
「やるか」ではなく「この場所で成り立つか」から
先に見るのは立地です。配達アプリを開いて、自店の周りに同じジャンルが何軒並んでいるか数えてください。1分で見えます。
手数料を引いた数字で考える
想定売上ではなく、手数料35%と食材費と容器代を引いた残りで考えます。1件いくら残り、月に何件出れば手間に見合うか。電卓で出してから決めてください。
リソースの取り合いを見る
厨房の手も、あなたの時間も1つです。宅配に割いた分だけ、目の前のお客様への接客は薄くなります。ここが最後の分かれ目です。
「新規のお客様より、既存のお客様の再来店」。この判断の順番は、制度が変わっても変わりません。
💡 今週やってみるチェックポイント
- ここ1か月で届いた「今がチャンス」の営業を、いったん保留にする
- 自店の値札を、減税後にA〜Dのどれにするか一度決めてみる
- 配達アプリを開き、自店の周りに同じジャンルが何軒あるか数える
- 手数料35%を乗せた自店の価格を、画面上の他の選択肢と並べて見る
- 仕入先に「2027年4月以降の価格はどうなりますか」と一言聞いておく
制度が変わるときは、儲け話が必ず増えます。全部が嘘だとは言いません。ただ、その人はあなたのお店の立地も、厨房の手の数も知りません。
判断の基準は1つです。あなたの大切な時間とお金を、そこに割く価値があるかどうか。まずは配達アプリを開いて、自分のお店の周りを1分だけ見てみてください。それだけで、答えの半分は見えてきます。
